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環境影響評価書に対する意見書

                                                      1991 年 7 月 18 日

     北海道知事 様
                  〒081 北海道上川郡新得町字新内西1線125
                         芳賀 耕一(農業・35才)
                         01566-4-6893

         環境影響評価書に対する意見書

 次の特定開発事業に係わる環境影響評価書に関し意見書を提出します。

   1.特定開発事業の名称 狩勝高原サホロリゾート開発事業

   2.意見の内容


● まずは自己紹介

 私は19才まで東京で暮らしていましたが、「食うためには仕方がない」と自分に言
い訳しながら長い物にまかれて行くのは我慢できず、「じゃあ、食うものを作ろう」
と考えて北海道に来ました。新得・本別の農家で3年間の実習後、現在の土地に入植
して14年目となりました。農薬を使わない野菜作り・平飼い養鶏で、経済的には決し
て楽とは言えませんが、街の人々に食べ物を手渡すことを楽しみに何とか暮らしてい
ます。たぶん佐幌岳の最も近くで暮らす農家だと思います。

● えっ、農林業の町・新得がリゾートの町になる!!

 ご存じのように日本は農業を犠牲にすることにより急速に工業化社会を発展させ、
その経済力で他国の自然環境・生活環境まで破壊していますね。アジアの国々は日本
にバナナやエビや木材を輸出するようになりましたが、それでアジアの人々の暮しが
豊かになったと言えますか。
 林業の事はよくわからないのですが、日本の国有林はコスト優先の略奪型林業によ
り再生産ができなくなっていると聞きました。日本は世界の森林を破壊しながら、自
国の林業も駄目にしているのですね。
 真の国際化社会を目指すこと、これ以上の環境破壊をしないためには、まず自国の
農林業を守っていくための地道な努力が必要でしょう。農業や林業が日本国経済の中
で虐待されているからといって、新得町が小金持ちになって浮かれている都会人相手
の観光商売に活路を見いだそうと言うのでは、農林業の衰退は避けられません。
 土から離れた都会に暮らす人々も豊かな自然の中での暮しを体験したら素晴らしい
と思います。でも頂上までリフトが運んでくれるゲレンデスキーや、虫も住めないよ
うなゴルフ場で遊ぶことからは、自然環境と調和した暮しを作りだそうという力は涌
いてこないでしょう。
 スキー場やゴルフ場が無ければ都会人が訪れないからと、自然を破壊してスキー場
やゴルフ場を作るのは非常に貧しい発想です。とても『特色豊かなリゾートエリア』
とは言えないでしょう。私達・新得町民は豊かな自然と調和した農業・林業を育てて
いきましょう。しっかりした生産基盤の中から、工芸や芸術など真の文化が生まれる
ことでしょう。生活様式そのものが文化だと言った方がいいかも知れません。
 新得町が農林業の町として、生産の場を都会に暮らす人々に伝えるために宿泊設備
を持つというのであれば賛成です。生産者と街の人々とが共感できる場を作り、新得
町の農業を活気のあるものにしていけたらと思います。また訪れる都会の人々にはス
キー場やゴルフ場ではなく真の自然を知ってもらいたい。できれば、日々の暮しを見
直すきっかけとなるような体験をして帰って欲しいものです。
 ついでに書くと、スキー場・ゴルフ場主体の観光はこれから魅力を失い未来は無い
だろうと言うのが私の希望的観測です。

● 環境アセスメントって何ですか

 佐幌岳の観光開発については前々から嫌だと思っていたのですが、発言する機会も
無く実状もわからないまま今回のアセスメントを迎えました。町民として初めて公的
な意見を求められたので、ちょっとは真面目に考えてみました。でも時間があまりな
くて不充分な事しか書けません。資料もほとんどありませんから、誤りもあるでしょ
う。第一、環境アセスメントの意義について、ほとんど理解できていません。わから
ない事だらけの環境影響評価書です。新得町民にとって重大な問題ですので、町民み
んなが考えられるだけの充分な時間を頂きたいと思います。

● 環境影響評価書の縦覧方法について

 新得町役場で期間内に縦覧した人は私を含めて6人です。環境影響評価書はその厚
さと内容で素人を威圧するには充分ですが、持ち出しを許可してもらえなかったため
コピーも出来ず短い時間では理解することが不可能でした。やっと最終日にコピーさ
せてもらえたので、何回も読み返して少しは内容がわかりました。これからのアセス
メントについて縦覧方法の検討をお願いします。

● 地元への経済波及効果について

 こちらの無関心に問題があるのでしょうが、現在までの観光開発は町民不在のまま
行政側の強力な推進によりここまで来てしまいました。町民の多くは、観光開発を進
めた場合、新得町がどのようになって行くのか想像が出来ず、賛成とも反対とも言い
かねています。ただ実感しているのは「あれだけの観光施設が出来ても地元の暮しは
ほとんど豊かになっていない」という事でしょう。
 新得町側は「しんとく広報」を使ってサホロリゾートの地元への経済波及効果につ
いて宣伝しましたが、町民の不満は「これだけの金が動くのに、なぜ地元利益が出な
いのか」という事です。地元収入は多くても所得につながらない。要するに極端な低
マージンによりお金は素通りするだけです。雇用の場としての意義はあるのかも知れ
ませんが、人手不足の新得町では必ずしも喜ばれていないようです。

● 『地元の積極的な協力を得て』(p.37)

 確かに、新得町が株式会社・サホロリゾートのために投資した金額は莫大です。新
得町はサホロリゾートからこの5年間に町税として4億2千万円の収入があったそう
ですが、 5億6千万円の総合体育館を始め水道・道路工事費など15億8千万円の支出
を計画していると聞くと、町民として非常に不満のある町財政です。
 セゾングループなどは行政を非常にうまく利用しながら多大な利益を上げ、これだ
けの大企業になったのでしょう。一企業の利益のために協力を惜しまない新得行政に
対しては情けないとしか言いようがありません。
 「しんとく広報」によると『農家一戸当たりの農業関係総体の投資額を比べると、
新得町が314万円でトップ』だそうで、 新得町は観光だけでなく農業に対しても『町
の財政も応援』と強調しています。その中の大きなものに農道空港(総工費5億円)
があります。ところが「輸送コストが高くて経済的に引き合わないだろう。本当の目
的は観光利用だろう」というのが、多くの町民が考えていることです。数年後には真
実が明らかになるでしょうが、本当に農民が望むことに投資して頂きたいものです。

● 廃棄物処理計画について

 私達の暮しの中で、廃棄物の問題は最も真剣に考えなくてはならない問題のひとつ
でしょう。 サホロリゾートは計画によると『年間入り込み者数約100万人』(p.37)と
の事ですが、どのように廃棄物を処理するのか環境影響評価書を見て愕然としました。
あれだけの分厚い評価書の中に『事業予定地域内で発生する廃棄物は「新得町じん芥
処理場」で処理され、残った不燃物は同処理場内にある埋立処分場にて処分される』
(p.68)としか記されていなかったからです。もちろん山で野焼きしたり埋め立てるこ
とを望んでいるのではありません。ゴミを減らすためにみんなが努力して、処理につ
いては処理コストを惜しんではならないのに、責任のすべてが新得町に押し付けられ
ている。こんなに重要な問題を無視しようとしている。
 現在でも新得町のゴミ処理は野焼き・埋立場新設など数多くの問題を抱えて未解決
なのに、大量の廃棄物を安易に引き受けてしまう行政では『地元の積極的な協力を得
て』と一企業を喜ばせるばかりです。
 廃棄物処理問題について真剣な計画の再提出を求めます。

● 不明確な伐採計画

 新得町民に配布されたパンフレット「環境影響評価書の概要」には『各種施設の造
成面積は、事業計画面積 2,200haに対し既存施設は約7%、新規造成面積は約23%で
あり、実に70%が豊かな植物相をもつ森林となるように保育、修景されます』と書か
れています。ところが環境影響評価書の土地利用計画概要(p.37)の方では『計画面積
2,200haのうち新規施設の敷地面積は約36.6%であり、 森林として保存する面積は約
56.3%の計画である。.…… また既存施設の敷地面積は約7.1%である』と記述に隔た
りがあります。
 サホロリゾート側の説明によると、敷地面積と造成面積の差違だとのことですが、
『森林として保存する面積は約56.3%の計画』が非常に気になります。今回のアセス
メントで、施設計画のない部分まで含む 2,200haという広大な面積が事業計画地域と
されていることは非常に不安ですが、その43.7%までの森林を破壊される恐れがある。
おまけに計画自体が流動的なのだと説明されると、このアセスメントの意義がわから
なくなります。
 とにかく新得町民に対して70%の森林を残すと説明したのですから、本文の方にも
明記することを要求します。そして道は責任を持って計画を守らせて頂きたい。

● 汚水処理について(p.62)

 放流水質の監視は誰がどのような形で行うのでしょうか? 放流水質は濃度で規制
するようですが、濃度規制は汚水を水で希釈することによって簡単にクリアできます。
現在でも河川水質は 『BODの75%値は環境基準値を満足していない地点も見られる』
(p.113)のですから、 濃度規制基準を満たせばいいとするのではなく、環境に対する
負荷をできるだけ少なくするよう努力を惜しまないで頂きたい。

● サホロ湖の水質汚濁について

 予測を見るとサホロ湖の富栄養化は避けられないようです。リン含量が4倍、窒素
含量が1.7倍になるというのは(p.150 表中 T-P 0.019mg/lは 0.041mg/l の誤り)、
見過ごせない問題だと思います。肥料を流出させない肥培管理・排水処理方法の改善
など、まだまだ工夫の余地があるでしょう。こちらは素人で具体的な提言は出来ませ
んが、もっと慎重な検討をお願いします。

● 農薬使用計画について(p.68)

 ゴルフ場の農薬使用による環境破壊が大きな社会問題となって、各地の周辺住民は
自分達の生活環境を守るために必死の努力を続けるようになりました。その成果が表
れ、今回のアセスメントも農薬使用に関してはそれなりの配慮をしたものにはなって
います。1990年には駐車場に除草剤の散布を行っていますが(p.259)、 今後は『農薬
の使用はゴルフ場内に限定し、スキー場やホテル、コンドミニアムの芝地等のエリア
では使用しない』(p.68)ことを約束しました。また1991年現在、魚毒性C類の農薬も
使用していますが、『使用する農薬は魚毒性がA類及びB類に限り、C類は使用しな
い』(p.68)と表明した事は評価に値します。それでは何故、現在もC類農薬の使用を
続けているのでしょうか。既存のゴルフ場は適用範囲外だとでも説明されるのでしょ
うか。一刻も早く、既存のゴルフ場から実践して行かなければ住民を説得する事は出
来ないでしょう。
 除草剤の使用はゼロではないものの、ティーグラウンド・フェアウェイへのスポッ
ト散布しか行わず、新規ゴルフ場36ホール当りで14リットルの使用に抑えるとの計画
です。殺虫剤の散布も50リットルと書いてあります。問題は、実際の農薬使用量が農
薬散布計画以内に収まるかについて、誰も責任を持たないことです。そんな計画には
まったく価値がないでしょう。環境アセスメントの存在価値まで問われます。だれが
どのような形でこの計画を守らせるのかはっきりさせて頂きたい。また既存のゴルフ
場については説明が一切されていませんが、既存ゴルフ場での農薬使用は新設ゴルフ
場より多いと聞きました。現存するゴルフ場に対して減農薬の努力がされていないの
であれば、この計画を信頼することは無理でしょう。
 また先日ゴルフ場を視察したところ、ゴルフ場の周辺部についても除草剤を使用し
ている様に見受けられましたが私の思い違いでしょうか。
 農薬散布量で最も使用量が多いのは殺菌剤となっています。ゴルフ場という非常に
不自然な環境を維持するために農薬はかかせないとの説明でした。「それならゴルフ
場は作るな」というのが私の本心ですが、日本各地では住民の努力により無農薬ゴル
フ場に取り組むゴルフ場が増えています。無農薬ゴルフ場を目指す事は経営上不利に
なるのかも知れません。サホロリゾートが実行しようとしないのは、私達住民が嘗め
られているからでしょうね。

● ゴルフ場排水計画について(p.69)

 防水シートの寿命は何年と考え、交換施工は何年間隔で行うのでしょうか。農薬で
汚染された土壌改良材や防水シートの処分方法はどうなりますか。
 新設するゴルフ場については排水管理を行うと書かれていますが、既存のゴルフ場
については記述がありません。既存ゴルフ場の排水計画についても明確にして頂きた
い。

● 『結果を見ながら吸着板を適宜交換する』(p.69)

 適宜というのは曖昧な表現ですね。農薬の検出値が規制値以下であれば交換しない
のでしょうか、規制値以下であっても周辺環境に与える影響を最小限にするために積
極的に交換するのか、具体的な交換の目安を示して頂きたい。また農薬の検査体制は
どのようになっているのか教えて頂きたい。
 また古い吸着板はどのような処分方法をとるのでしょうか?

● 豪雨時の農薬流出濃度の予測(p.155)について

 (参考)と断わっているだけあって、ずいぶんおかしな予測です。「30年確率の豪
雨で予測」と書かれていると、最も厳しい条件のように錯覚しますが実は正反対です。
雨量が多ければ多いほど農薬濃度は低くなります。 11月に100mmの豪雨が降り農薬が
100%流出すると仮定して同様の計算をすれば、 オキシン銅の農薬濃度は環境保全水
準を超えるでしょう。

● 農薬流出実験について(p.267-268)

 この環境影響評価書の中でも私がもっとも不信感を抱いたデータです。400mg/l の
農薬を含む水が、50cmの層を通過すると0.001mg/l以下となる。 これが本当なら素晴
らしい浄化装置です。でも農薬のすべてがテンポロンやゼオライトに吸着してしまっ
たら作物は農薬を吸収しないのではないか、 それでは折角(?)の農薬散布も意味をな
さないだろう、なんて心配までしてしまいます。
 もしかすると、新品の吸着材を使用すればこのような数値が得られるのかも知れま
せん。でも農薬散布毎に吸着材を交換する訳ではないでしょう。数年間使用するなら
その経年変化を調べるべきでしょう。また、テンポロンやゼオライトの農薬吸着能力
は施肥によっても減少する事でしょう。吸着した農薬だって簡単に分解するわけでは
ありません。そのような未知の事を調べ対策を講じていくのが実験の意義です。評価
書には数多くのデータが含まれていますが、有意義な実験は一つも見いだせません。
 『農薬の流亡率は.…現時点では明らかになっていない』(p.154)のにもかかわらず
こんな無意味な実験結果を提出するサホロリゾートに対し抗議します。
 実験結果に直接影響の無い部分ですが、表V-1-6最下段左の20,160分という計測結
果は実際には計測していないでたらめ数値でしょう。実験の信用性自体も疑います。
 公的研究機関による追試を強く要望します。

● 最後に

 締切の時間が来てしまいました。まだまだ書き足りないことで一杯ですし、もっと
調べたい事もたくさんあります。とりあえず今回は、これだけを意見ならびに質問と
して提出しますが、まだまだ未解決な問題が山積みしていることを配慮して、時間を
かけた審議をお願いして最後とします。引用したデータなどに誤りがみつかれば、追
加して送付したいのですが受け付けていただけるのでしょうか。

 以上、よろしくお願いします。